「生活」と「人生」
特定医療法人共和会 理事長 共和病院 院長 山本直彦
明けましておめでとうございます。
今、この原稿を書いている2021年12月はじめの時点では、愛知県の新規感染者数はわずか数名という状況でありますが、年が明け、皆さんがこの新年号を読まれる頃はどのような感染状況になっているのでしょうか?
2019年の12月に中国で発生したCOVID-19は、日本では2021年8月には第5波の大きな感染爆発を来しました。
幸い当病院や関連施設では職員はじめ皆様の理解と努力の甲斐あって、クラスターの発生もなく今日に至っております。
COVID-19によるパンデミックは世界のあらゆる分野に大きな変革、差別や偏見、分断、不寛容などをもたらしていますが、中世のペスト禍があった670年前とコロナ禍にある現在の人間行動は驚くほど似通っていることに驚かされます。
現代文明も感染症によるパンデミックにより、いとも簡単に日常生活が崩壊するものであることを知らされました。遠藤周作没後24年になる2020年、未発表原稿「影に対して」が発見されました。
安定した「生活」を重視するサラリーマンの父親と、バイオリニストとして高い理想を求めて「人生」を燃焼させようと、日々練習に明け暮れた母親。
やがて両親は離婚し、周作は母と別れ、父と暮らす中で繰り返し煩悶した心の葛藤を描いた私小説です。
息子の将来に対し、「生活」を優先し、強要する父に嫌悪感を抱き、「人生」に命を賭け離婚後に亡くなった母に心酔し、小説家を志した周作は、その後自ら病に倒れる中で寛容の心を抱き、憎悪していた父を赦すことになります。
人は禍の中にあって、排除の論理に走るのか、反対に謙虚に自らの弱さを見つめ、自分が最も憎む存在を認め、寛容の心で赦す事ができるのか、我々に突きつけられたテーマでもあります。
このコロナ渦で新たに見えてきたものもあれば、失ったものも多くあります。
先ずは、経済を回し、早く日常を取り戻す事が優先されますが、安全なアスファルトの道を歩き続けるのか、それとも、振り返れば自分の足跡が残る歩きにくい海の砂浜を行くのか、当たり前の「生活」の大切さと、志ある「人生」の尊さ、この2つの道が互いにせめぎ合いながら、私達は「ウィズコロナ」「アフターコロナ」を生きていくことになります。
今回のコロナ禍を体験した事によって、「生活」と「人生」の調和をはかりながら、地域医療に貢献していきたいと思っています
『 優しい医療・楽しい職場 』
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